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2 とある町で
春から初夏にかかる海近くの気候、
太陽が眩しく照っていた。
少し目深に、笠を被った。
翁の棲まいからは いくつか山を越えた。
時折に、雨に降られた。
草木には花が咲いていた。
この辺りには、機械も獣人も人間も住んでいる。
丘の上にある茶屋で、もう一つ行けば大きな集落があると耳にした。
太平洋が近く、商いが盛んなようだ。
眺めれば、印象的な神社の鳥居。その近くには屋敷が、そして、海の方面に下町が続く。
穏やかな河川に舟屋があり、多くの人々が往来している。
余は、舟屋の近くのエリアを見る、余の特殊な目が キリキリという小さな音を出しながらズームアップをする。
海から、アクリル張りの円柱の水槽の車椅子に入った魚人も町に降りている。賑やかな場所だと思った。
茶屋の給仕が言うには、鳥居のそば、ひときわ立派な屋敷が一帯を仕切る御役人の御屋敷ということだ。
河川をたたえるこの集落は、いくつもの藁葺きの家屋があり、その戸をみると馬小屋もある。
開墾する自然に富み、また穏やかな気候で、住んでいる人々も多い、ということだろう。
そのため、度々に市場が開かれたり、夜を明かすような特別な祭事もあるそうだ。
市場も海沿いに開かれ、他の集落との交換をし、この土地で穫れる作物は良く取引がされる、こういう自らの暮らす土地について店の者達がなれた口ぶりで話がでてくるところから、きっと行商や旅の者が訪れることも少なくないのだろう。
余は、あの山中の蔵から拝借した羽織に手甲と笠をして、少しぶらついている、とでも言えばいいか。特別な目的や当てがあるわけではない。
『お侍様は、町へ寄っていかれるのですよね?お泊まりがもし決まっていらっしゃらなければ、徳兵衛の宿がおすすめでございます。』
給仕の小僧が言う。
少し考えて、
「当てのない旅だから…、助かるよ。」
とだけ答えた。
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