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「何だこれ!」
アキは思わず声を上げた。
「なになに?」
ヒロキが近寄ってきて、アキの手もとをのぞきこむ。
〝タスケテ!〟
黒マジックの文字が、ヒロキの目に飛び込んできた。くずれて開いてしまったササ舟に、大きく殴り書きされていたのだ。
「なんか、ヤバイんじゃない?」
アキからササ舟を受け取ったヒロキは、まるで探偵が証拠品を調べるように、太陽に透かして見ている。
「そんなの、なんでもないよ……」
2人の後ろをウロウロ歩き回っていたタカオが、つまらなそうにつぶやいた。
「オマエ、そんなこと言うなよ……。もし本当に誰かが助けを求めてたらどうすんだよ! このヘタクソな字は子どもの字だな……。たぶん犯人に見つからないように、こっそり川に流したんだよ!」
ヒロキは、すっかり名探偵気取りだ。
「オレもちょっと心配だな……。念のために、駅前の交番に持って行こうよ!」
もしかしたら、なにか大きな事件に巻き込まれちゃうかも知れない……
アキの心臓は、小さな不安と大きな期待感で高鳴った。
武蔵川にあるアシ原のアシは、7月には大人の背丈を越えるほどに伸びる。まず、そのアシ原を2メートルくらいの円形に刈り取る。それから座った時、切り口がオシリに刺さらないように、段ボールとブルーシートを敷きつめる。次に脚立に登ってアシの穂先をよせ集め、外側に刈り取ったアシの葉を重ねる。最後に天辺をロープでしばってまとめれば、円錐形の秘密基地の出来上がりだ。夏休みの間じゅう、3人はその秘密基地で過ごすことに決めていた。
アキとヒロキとタカオは小学校の4年生だ。不思議なもので、仲の良い仲間はクラス替えの時、別々のクラスに振り分けられることが多い。でも、この3人は例外だ。入学の時から、ずっと一緒のクラスだった。
アキは自分の名前が気に入っていた。共働きの両親に代わって、幼いころのアキを育ててくれたのは、おじいちゃんだった。そのおじいちゃん〝秋生〟から一文字もらったのがアキの名前だった。だからアキにとって、自分の名前は特別だったのだ。
その大切な名前を、少なくないクラスメートが『女の名前みたいだ』と言って笑った。でも、ヒロキとタカオだけは『かっこいい名前!』と言ってくれた。だからアキは、2人と親友になれることがすぐに分かったのだ。
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