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「ご来店、初めてでいらっしゃいますよね?」
髭を蓄えたダンディーなマスターが尋ねてくる。
「はい」
「当店にメニューはございません。こちらが考えた物をお客様にお出しするシステムになっています」
そう、まずはメニューだ。座ったカウンター席にも、お店のどこにもメニューがないのだ。
「それから、1つだけルールがあります。それは、」
一旦話を区切りマスターが目配せしたので、流星は店の中をもう一度見渡した。
「お客様同士の会話は一切禁止となっております。たとえお知り合いでもです」
そうなのだ。この店は客で溢れているのに、会話が一切聞こえてこないのだ。
改めて客の様子を見た。ほとんどの人が目を閉じている。そして、その中には静かに笑っている人、また、涙を流している人もいた。
会話がないことも不自然だが、それよりも、各々の客の振る舞いに違和感を感じた。
「それさえお守りくだされば結構です。それでは、今日はお飲物をお出ししますので、少々お待ち下さい」
注文ができない以上言われた通り待つしかない。しばらく待つと、オレンジジュースが運ばれてきた。
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