1.歩牛灯

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「ご来店、初めてでいらっしゃいますよね?」 髭を蓄えたダンディーなマスターが尋ねてくる。 「はい」 「当店にメニューはございません。こちらが考えた物をお客様にお出しするシステムになっています」 そう、まずはメニューだ。座ったカウンター席にも、お店のどこにもメニューがないのだ。 「それから、1つだけルールがあります。それは、」 一旦話を区切りマスターが目配せしたので、流星は店の中をもう一度見渡した。 「お客様同士の会話は一切禁止となっております。たとえお知り合いでもです」 そうなのだ。この店は客で溢れているのに、会話が一切聞こえてこないのだ。 改めて客の様子を見た。ほとんどの人が目を閉じている。そして、その中には静かに笑っている人、また、涙を流している人もいた。 会話がないことも不自然だが、それよりも、各々の客の振る舞いに違和感を感じた。 「それさえお守りくだされば結構です。それでは、今日はお飲物をお出ししますので、少々お待ち下さい」 注文ができない以上言われた通り待つしかない。しばらく待つと、オレンジジュースが運ばれてきた。
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