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――――――
私はその日も同じようにこの定食屋を訪れていた。
いつものように手前にあるカウンター席に着くと、女将さんがほうじ茶を置いてくれる。
それをゆっくり飲みながら、いつものように何を食べようかと悩んでいると、さばのみそ煮定食が一人の男性の元へ運ばれているところが見えた。
男性は料理をよく眺めた後、さばを一口食べた。
「あっ、この味」
そう言って、男性は親父さんの方を見つめた。
親父さんはその視線に気付いて顔を上げると、ただ静かにその男性に向かって頷いて見せていた。
それを見て男性はしばし目を閉じ、ひとつ息を吐き出すと食事を再開した。
一口ひとくちを愛おしむように味わっている姿が印象的だった。
私はその男性を知らなかったが、その日も今日と同じように後からやってきた同僚は知っている人だったようだ。
「俺が担当した人だ」
「そうか・・・・・・」
同僚は店を出ようとするその男性の姿を見送っていたが、相手は同僚の姿を見ても特に何の反応も示してはいなかった――――
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