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――――――
「そっか、あの男の人、どこかへ旅立っちゃったんだな」
同僚はほんの少しだけ寂しそうに、でもどこか清々しさを湛えて、そう言った。
「穏やかな場所だといいけどなぁ」
「あぁ、そうだな」
私は同僚の言葉に賛同し、改めて店内を見回す。
そこには様々な年代の人たちが座っていて、それぞれ思い思いの料理を味わっていた。
彼らは、ここでの食事を終えるとまた別の所へ向かう。
それは、町の中心かもしれないし、山や海かもしれない。
それが分かるのは彼らだけなのだ。
いや、それも少し違うかもしれない。
彼らを導くのは彼らの「思い出」といわれるものだという。
いつか見た風景や、いつか聞いた音・・・・・・
いつか触れた空気や、いつか嗅いだ香り・・・・・・
いつか味わった料理、いつか体験した何か・・・・・・
そう、生きている間に得た「何かしらの感覚」が彼らを導く。
どれがどう彼らを導くか、それは私には分からない。
でも、彼らはこの町で「思い出」に導かれて、ここでの時を過ごすようだ。
そして、時が来ると彼らは別の町なのか、別の世界なのか、定かではないのだけれど、旅立っていく。
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