いつもの定食屋

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私と同僚の仕事は、あくまで最期の時を迎えた人たちをこの町に連れてくること。 だから、担当をした人が最期をどこで迎えて、どんな様子だったのかは分かっていても、それ以上のことをよく知らない。 それにこの町に辿り着くと、彼らは私たちのことを忘れてしまうし、自分と同様の立場の人にも興味を持たない。 だから、私たちは彼らのことを深く知りようがないのだ。 ただ、私と同僚は男性を担当することが多い。 それだけは分かっていた。 だからといってはなんだが、私たちが担当した人はこの定食屋に来ることが多い。 そんな彼らが注文すると、新しいメニューが生まれた。 そして、彼らがこの町にいる間、そのメニューは掲げられている。 しかし、彼らが旅立てばメニューは消える。 なぜなら、そのメニューはその人の思い出の味だったからなのだろう。 そのことに気付いた私と同僚は、この定食屋に通うようになった。 自分が担当した彼らが一体どんな味に導かれていたか、少しだけ知ることができるからだった。
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