一話

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                  ☆ 「おはよー。私服の由希乃ちゃんは一段と可愛いな」 「え~。制服は可愛くないみたいじゃん。多島さん、待った?」 「ううん。……てのはウソ。一時間前から本読んで待ってた」 「も~、待ちきれなかったの?」 「バレたか。俺、朝食べてないんだ。近所でお昼ごはん食べてから出かけようか」 「はーい」  翌日の昼、二人は駅前で待ち合わせると、ファミレスで軽く昼食をとって、目的の店に出発した。  広い国道を渡り、橋を二本渡り、坂を登って降りて、踏切を渡り、植物園の脇を通り、またそこからしばらく歩いて……その場所はあった。 「はー、やっと着いたー! ここだよ、多島さん!」  右手を大きく開いて店先を指す由希乃。 「えっと……。もしかして、今日は定休日?」  小首をかしげて多島くんが言う。 「へ? ……あああああああああああああ!」  由希乃は閉まったシャッターを指差して悲鳴をあげた。 「残念だったね、由希乃ちゃん。また今度来ようよ」 「うう……ごめんなさい。久しぶりだから、ネットで調べれば良かった……」 「気にしなくていいよ。一緒に出掛けられれば俺は――」  騒ぐ二人に気付いたのか、お隣の花屋の店員さんが店の中から出て来た。  三十ぐらい、ショートボブでエプロン姿の女性が由希乃たちに声をかけた。 「あの、お隣の喫茶店に御用かしら?」 「はい……」  由希乃はぐったりしたまま返事をした。  彼女のかわりに多島くんが店員さんに訊ねた。 「こちらのお店、今日は定休日ですか?」 「いいえ……去年ご主人が亡くなって、閉店されたんですよ」 「えっ、それは残念です……」 「うそお……もう入れないの? うう~~~~」     
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