一話

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「そうでしたか……。ありがとうございます。残念だけど仕方ない。由希乃ちゃん、今日は帰る? それともどこか行きたい場所あるかい?」 「急にいわれてもぉ……」  由希乃はパーカーのすそをいじくり回していて、要領を得ない。  多島くんは困ったな、という表情で由希乃を見ている。 「あの、お連れさん、どうされたんですか?」 「う~ん……実は、この喫茶店、彼女の思い出の場所だったんです。今は川向こうに引っ越してしまったので、気合いを入れて遠出してきたのですが……」 「あらあら。それは残念だったわね。う~ん、どこかデートに向いてる場所ってないかしら……」  店先で話し込んでいると、花屋から別の店員さんが出て来た。 「おい、どうしたんだい?」 「ああ、あなた。実はこちらの方――」  後から出て来たのは、女性の旦那さんのようだ。  由希乃たちの事情を説明すると旦那さんは、 「お隣のご主人が亡くなったのは残念だが、今この店は、別の場所で息子さんが継いでらっしゃるよ。調度品も什器も昔のままだから、雰囲気だけなら味わえるんじゃないかな。行ってみるかい?」  ぐずぐずしていた由希乃の顔が、一気にぱっと明るくなった。
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