7人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「そうでしたか……。ありがとうございます。残念だけど仕方ない。由希乃ちゃん、今日は帰る? それともどこか行きたい場所あるかい?」
「急にいわれてもぉ……」
由希乃はパーカーのすそをいじくり回していて、要領を得ない。
多島くんは困ったな、という表情で由希乃を見ている。
「あの、お連れさん、どうされたんですか?」
「う~ん……実は、この喫茶店、彼女の思い出の場所だったんです。今は川向こうに引っ越してしまったので、気合いを入れて遠出してきたのですが……」
「あらあら。それは残念だったわね。う~ん、どこかデートに向いてる場所ってないかしら……」
店先で話し込んでいると、花屋から別の店員さんが出て来た。
「おい、どうしたんだい?」
「ああ、あなた。実はこちらの方――」
後から出て来たのは、女性の旦那さんのようだ。
由希乃たちの事情を説明すると旦那さんは、
「お隣のご主人が亡くなったのは残念だが、今この店は、別の場所で息子さんが継いでらっしゃるよ。調度品も什器も昔のままだから、雰囲気だけなら味わえるんじゃないかな。行ってみるかい?」
ぐずぐずしていた由希乃の顔が、一気にぱっと明るくなった。
最初のコメントを投稿しよう!