一話

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                  ☆  二人は、おしゃべりをしながらダラダラ歩いていると、いつのまにか目的の店にたどり着いた。 「ここかな。やっと着いたね。お店は……やってるようだよ」 「あー……そっくりだぁ……」 「外観からすでに似てるのか。やはりお父さんの店への思い入れが強いんだな」 「えっと……大きさはこっちの方が小さいんだけど、でも……同じだってわかる」 「文字通り、同じ遺伝子を受け継いでるってカンジか」 「そう、そうそう! そういうやつ! やっぱ大人はちがうなー」 「うん、そう、だね」  多島くんの顔が一瞬曇ったが、由希乃は気付かず、店先のメニュー看板を物色していた。あまり由希乃に大人扱いされたくない多島くんなのである。      ☆ 『カランコロン』  多島くんが店のドアを開けると、上端に取り付けられたカウベルが鳴った。  促されて店内に入った由希乃が、わぁ、と声を上げた。 「すごい……。なにもかも同じ、でもぎゅっと濃くなったカンジ……」 「ホント? それはよかった」  店内をキョロキョロ見ている由希乃を、ニコニコしながら多島くんは見ている。 「いらっしゃいませ。お好きなお席へどうぞ」  多島くんより少し年上と思しき男性が、二人に声をかけた。  細身のフレームのメガネをかけ、知的で落ち着いているように見える。店のイメージにピッタリだ。     
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