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彼はひと目で喫茶店のマスターと分かるようなベストにワイシャツと、首元にはループタイを身に付け、左右の腕には、袖丈調整用のバンドがついていた。
店内に客はなく、カウンターの端に置かれた小ぶりなクッションの上で、猫が丸くなっているだけだった。
「じゃあ、カウンターで」と、多島くん。
「いいの?」
「由希乃ちゃん、マスターにいろいろ聞きたいこととかあるんじゃないのか?」
「でもお……」
「いつも隣り合って座ってるじゃん。それとも、そんなに俺の顔が見たいの?」にんまりしながら言う多島くん。
「べつにそんなんじゃないし。……じゃあ、カウンターで」
マスターは慣れた手つきで二人分のコーヒーを淹れると、静かに彼等の前に置いた。
「お待たせいたしました。……ところでお客様、どうやら当店のコーヒーよりも、この店そのものに御用があるとお見受けしますが、差し支えなければお聞かせ下さいますか?」
マスターはにっこり笑って軽い会釈をした。
「あ、あの……えと……」
もごもごと要領を得ない由希乃にかわって多島くんが口を開いた。
「僕の連れが以前、ご主人のお父様が経営しておられた喫茶店の近所に住んでいまして、懐かしくて久しぶりに訪れたのですが、すでに他界されていたと、お隣の花屋のご夫婦に伺いまして」
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