ありふれた出会い

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「なんだよそれ、新しく買ったの?」 「ん?すてきでしょ?このバッグ。私のオーバーナイトケースよ」 「オーバー・・なに?」 「オーバーナイトケース」 「ふぅん、で、なに?」 2本の指でバッグのハンドル部分をひょいとひっかけて持ち上げた浩介は、 興味があるともないとも言えないようなどっちつかずの目で眺めまわしている。 クロコダイルの型押しのボストンタイプのバッグ。 大きさは、A4サイズの雑誌がすっぽり入る、といえばわかりやすいだろうか。 「で、なんなんだよ、オーバーナイトケースって」 その意味には関心を持ったようだ。 私の長い髪を指に巻きつけながら浩介は答えを催促した。 「恋人の部屋に泊まりに行く一晩分の荷物を入れるバッグのことよ。  若い頃、当時の人気女優が雑誌のインタビューで言ってたの。  必要最低限の物だけをコンパクトなバッグに詰めていくんですって」 「へぇ~こんな小さなバッグに何が入るんだよ?」 「化粧品と下着、それだけでいいの・・パジャマは彼のシャツを借りるんだって・・」 言葉の終りに合わせるように浩介は、私の唇を塞ごうとした。 でももう一言だけ言いたくて、私は天井にむかってあごを突き出した。 「一晩しか一緒にいられない私にはぴったりよ・・」
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