思い出になれない犬

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『ゴンタはおすわりを覚えた』ゴンタはレベルアップを果たした。と同時にゴンタは味をしめた。つまり(食い物があるぞ!)とみるやいなや、勝手におすわりをするようになってしまったのである。それはエスカレートし、あげくにはビニール袋や紙袋の擦れる音が微かに聞こえただけで敏感に察知し、食い物が貰えると勘違いし、ブリンブリンとしっぽを振りつつソワソワしだし、命じる前にというよりも、命じてもいないのに、くい気味におすわりをするようになってしまったのである。 そこでその姿を見た僕らが、(あげるつもりはなかったけど、勘違いをさせてしまってかわいそうだから……)といって、その都度食べ物を与えてしまえば、ゴンタはますますやみくもにおすわりをするだろうし、万病の元でもある肥満にもなってしまう。それはゴンタにとって決してよいことではないから、簡単には食べ物をあげたりはしなかった。 しかし、人から見る犬の視線は常に、自撮り女子ばりの上目遣いである。なんど見ても見飽きることのない、うっかり微笑まされてしまう、その強烈な愛らしさにほだされて、ついついおやつをあげてしまうこともしばしばあり、ゴンタはますます『とりあえずおすわり』をするようになったのであった。 むやみに食べ物を与えないようにすることと適度な運動。そして散歩。ゴンタの体調管理もまた、犬を飼う家族の大事な役目である。ゴンタはまるで、明日という日があることや、明日もごはんを食べれることを知らないかのように、或いは「食べれるときに食べておけ」という親の言い付けを堅く守っているかのように、食欲旺盛であり、とにかく貪欲であった。 それだけ食うということは、膨大なエネルギーを蓄えることになる。そうなると、それを発散をさせてあげることもまた、飼い主として怠ってはならない大切な役目である。そこで重要になるのは、なんといっても日課の散歩である。
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