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一日一回の夕方の散歩は、いちばん早く帰宅する母に頼りきりになってしまっていた。母も仕事で疲れているのに、そこへゴンタの「散歩コール」が鳴りやまなければ、鳴りやませるために散歩に連れていかなければならず、尚且つ家事もこなさなければならず、母には大変な苦労をかけていたと今更ながら思う。
そんな時だった、僕が部活中に腰を痛めてしまったのである。捕球しようとグラブをかまえ、脚をひろげた瞬間、腰から内腿にかけ激痛がはしり、グランド上でへたりこんでしまったのである。結局、診断結果は『椎間板ヘルニアなりかけ』だった。なんとも曖昧な診断結果だったが、甲子園出場やプロ野球選手になることが目標だったわけでもなく、無理は禁物ということで、監督や父と相談したうえで、1年目の夏にはやくも退部を決めたのである。いわゆる、帰宅部、になったのである。
すると当然、帰宅時間が早まることになる。よってゴンタの散歩、及びごはん係が僕の役目となった。この時期からである。僕とゴンタ、ふたりきりの時間が流れ始めたのは。
僕がどんな気持ちで帰宅しようと、腰が折れそうなほど尾を振り、喜んで僕を出迎えてくれるゴンタという存在のありがたみを、思春期真っ只中の僕にはまだわからなかった。それに気づきはじめるのは、もうすこし後のことになる。
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