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追うほどに人気がなくなっていく。路地裏はどんどん入り組み、振り返れば帰り道がわからなくなりそうだった。
しかし、カテは尾行に夢中でそんなことにも気付いていなかった。たぶん、カテのことなので気付いていても気にしないかもしれないが……。
フードに身を包んだ不審者はカテに気付いているかは不明だったが、カテの尾行を意識したような行動は見受けられなかった。
それでカテは特に何も思わず尾行していたのだが……。
「あれ?」とカテは立ち止まる。
ちょうど曲がり角を曲がった先が三方向に分かれていた。そして、不審者の姿がどこにも見当たらない。
「あれェ~?」
カテは間抜けた声を出す。首を傾げ、悩ましげに眉間に皺を寄せる。
野生児の嗅覚で不審者の進行方向をつかもうとするが、それも上手くいかなかった。
「見失っちゃったなぁ……」
落胆した様子でそう呟き、諦めて来た道を戻り始める。しかし……。
またカテは足を止めた。
んんんんん~~とやたらと難しい顔をする。
「どうやって来たっけ?」
カテは道をじっと観察してみる。もちろん、何もわからない。
ああ!どうしよう!と今度は頭を抱えて、カテはその場で右往左往した。もちろん、何も閃かない。
実のところ、どの道を進んでもどこか人の多い道に出るので、別にそこまで悩まなくてもよかったのだが……。
そんなとき、カテはどこから騒ぎの声を聞き取る。
異変に気付いた動物のように、背筋を伸ばし、少し上を向いて耳を澄ませる。
「こっちか!」
カテは自分の聴覚に従い、分かれ道の一つを選んで、駆けだした。
しばらく狭い路地裏を走って、カテは一度止まって、騒ぎの方向を再度確認する。
「もうすぐだ」
そうカテが言って走り出そうとしたそのときだった。
カテはとんでもないものと鉢合わせして、ぎょっとした。
茶色と黒の迷彩模様。琥珀色の双眸と獰猛さとしたたかさを兼ね備えた足運び。その大きな体躯を支える前足には、肉を裂く鋭利な爪が隠されているだろう。
「虎……っ!?」
一本道の路地裏の曲がり角で、カテは思わず声を出す。逃げられる状況ではなかった。
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