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「よし、と」   歩み寄ってきたかと思うと、ピアノ椅子に座って、隣をポンポンと叩き、まるで「来いよ」という顔をする相良くん。 「なに?」 「一緒に弾いて」   そう言って上目遣いで口角を吊り上げた彼に、図らずしも私の心臓は跳ねる。 「なんで? もう私にバレてるんだから、自分の右手と合わせたらいいでしょ?」 「自分でやったら右手が左手に合わせようとすんだよ。でも、ウサギとやったら、左手がウサギに合わせようとするから、上達する気がする」 「なにそれ。気のせいじゃないの?」 「いいから」   そう言って、じりじりと彼側に寄っていた私の腕を、相良くんはぐいっと引っ張った。 そのまま椅子にのっけて、「せーの」と声を出す。 「ちょっ……」   勝手に始まったのは、最初の頃に弾いていたハノン。 基本中の基本、指慣らしの音楽。
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