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ぼくたちは自転車を挟んで歩き出した。考えてみれば、こんな風に歩くのは、はじめてのことである。
「明日やな。なんか不安なとこでもあるん?」
「そうじゃないんです。演奏の方は大丈夫。むしろ自信あるくらいです」
「ほう。頼もしいな」
彼は強豪校出身だ。関西大会にも何度も出場するような中学校からやってきた。ぼくのような弱小吹奏楽部出身とは基礎からして違うのは知っている。
この約1年のうちの小さな演奏の場でも、それは如実に感じられた。だからこそ、ソプラノへの抜擢となった。
しばらく、ぼくたちは無言で歩いた。
フタバは何に悩んでいるのだろう。
もしかして、ぼくの落ち込みに気づいて、時間を作ってくれたのだろうか。
まさか、そんなに勘がいいわけがない。
世の中は、そんなに都合がいいわけがない。
「あの。今日ですね。チョコもらいました?」
「いや、もろてないな」
「フタバは?」
「少し」
「ええなあ」
「いや、待てよ。あの女子たちが友チョコ言うて配ってたのを含んでもいいなら、あるいは。……やっぱ、もろうてないわ。おかしいな、弟はあんなにようさんもろてるし、ほとんど同じ顔してんねんけどな」
苦笑いは空振りした。
「なァ」とフタバに顔を向けるとそこに彼の姿はなかった。
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