2月14日 土曜日 夕方

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振り向くと、フタバが立ち止まっている。 「先輩」 「はいはい」 ぼくは答える。 彼は小走りにやってきて、ぼくの前に可愛らしい包装の箱が突き出した。 「ボクから、チョコです」 「え。あ。はい。ありがとう」 ぼくはしどろもどろになる。どういうことだろう。 「それでですね」 「なんでしょう」 敬語になってしまった。 「明日のアンコンで、もし金賞が取れたら」 「金賞が取れたら」 生唾を飲み込んだ。 頬が紅潮し、うるんだ瞳が上目遣いにぼくを見つめる。 「付き合ってほしいとは言わないので」 つきあう? 「抱きしめてもらってもいいですか」 だきしめる? 「え」 フタバをぼくが? 「ボクは本気です」 「はい」 いや、それはまずいだろう。 ぼくの逡巡など気にせずに、言ってしまった満足感か、言えた開放感か、彼はまるで天使のような笑みを浮かべて、ぼくの横をすり抜けていった。 「あの。じゃあ、ここからボク乗りますので、お疲れ様でした」 「お、お疲れさん」 「約束ですからね! 約束しましたからね!」 彼はとても嬉しそうに地下鉄への階段を下りていった。 ぼくは約束はしていないと思うんだけど、と思いながら、呆然とその場に立ち尽くした。 世界は、ぼくのことなんかおかまいなしに、回っている。
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