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2月14日 土曜日 夜
「ただいま」
「おかえり、兄さん」
玄関で靴を脱ぐぼくをカイが出迎えてくれた。
父の靴もある。
「あれ?」
珍しいこともあるものだな、と思うと、ダイニングから父がぼくを呼んだ。
テーブルには母がすでにおり、父と母の前に兄弟二人が座った。
数ヶ月ぶり、いや、一年以上ぶりに家族で食卓を囲んだ。
「ハヤトとカイに大事な話がある」
父の顔は神妙で、母もまた真面目な顔をしていた。
「父さんと母さんは、離婚しようと思う」
ぼくは耳を疑った。
「お前たち二人は、おばあちゃんの家で暮らすか。……むしろ二人暮らしでもええ。この家をそのために残そうとも思う」
父は淡々と言った。逡巡は済ませたと言わんばかりだった。
苛立ちを隠そうともせず、カイが言い放った。
「父さん、エイプリルフールにはまだ早いで」
「冗談のつもりはない。もう決めた。だが、これからのことで心配はいらん。進学だって、思うようにしてくれ。学費や生活費は、父さんと母さんでちゃんと面倒を見る。何の心配もいらん。ただ、もう一緒には暮らせへんということや。ただそれだけのことや」
「それだけて」
カイが舌打ちした。
「意味がわからん。母さん、なんとか言うて」
ぼくは母にすがる。
ドッキリでした、とでも言ってくれると思った。
そんな展開なら、あり得る話だと思った。
「ハヤト。ほんとうにごめんね。でも、もう無理なんよ」
「何がやねん」
二人とも、なぜそんなに清々しい顔をしているのか。何をそんなにあっさりと諦められるのだろうか。
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