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カイがダイニングを飛び出したあと、ぼくは、ぼくたちの部屋で、弟を問い詰めた。
「おまえ、知っとったな」
「知ってたわけやない。でも、勘付いてはおった」
「なんやねん、それ。胸糞わるい」
「ごめんな」
すでにカイは落ち着いていて、ぼくだけがまだ頭に血が登った状態だった。
「知ってること、教えろや。ぼくだけ知らんとか不公平やろ」
「ほんまに聞くんか?」
「当たり前やろ!」
「母さんは、もう父さんのことをひとかけらも愛してない。早い話が新しい男ができたんや。それもずっと若い男がな」
「ああ」
「女っていうのは、そういうもんらしいわ。そういう本能なんや」
「……わかった」
それから、ここからが笑えるところなんだと言わんばかりに、シニカルな笑顔を浮かべて話し出した。
「で、それなら、父さんがかわいそうかと言うと、そうでもない。父さんにも父さんの別れたい事情があって」
「もったいぶらんでええ」
「昔の恋人が末期ガンなんやと。終末医療というやつかな。よう知らんけど。ここ数ヶ月は文通で励ましていたらしいんやが、いよいよ、というわけや。身寄りがないらしい。最後のその時は一緒にいてくれへんか。と」
「恋人として?」
「相手さんはそうなんやろうな」
「父さんもやろ」
「せやな。父さんはその辺、不器用やからな」
「勝手がすぎひんか、二人とも」
「でも、二人の人生は二人の人生や」
カイは、どうしてそんなに大人なんだろうか。
双子なのに。
同じ家に住み、同じような生活を送ってきて、同じ顔をして、同じ親の元で育ったというのに。
ひとりだけすでに巣立ったかのような、背中をみせやがって。
ぼくだけが何の折り合いもつけられず、子どもみたいに駄々をこねている。
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