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2月15日 日曜日 たそがれどき
「ハヤト」
幻聴かと思ったが、たしかに呼ばれた気がして振り返ると、フミオが立っていた。
「フミオ? なんで」
「だって」
「だって?」
フミオは答えずにぼくの隣に座った。
波が寄せては返す度に、太陽は沈んでいった。
「泣いてたの?」
彼女は優しい。
だから、ぼくは彼女の顔を見ることができなかった。
「泣いてへんよ。泣いてへん」
「うそ」.
「泣いてへんよ」
「ええねんよ? ウチは」
長い沈黙のあと、嗚咽が込み上げてきた。
彼女が優しく背中をさすってくれる。
「だって、ぼくもう17歳なんやで。ぼく、こんなんでも男やねんで。後輩もおるし、双子やけど、弟もおる。部長やし。頑張ってアンコンにも出たし、まだ定演だってある。まだまだ。まだまだあんねん。泣いてええわけないやんか。泣いてええわけ」
「泣いてもええよ。ウチはそう思う」
「何も知らんのに」
ぼくはそれが八つ当たりだとわかっていても止めることができなかった。
「なら、教えて」
それでも彼女は引かなかった。
「なんで」
「知りたいから」
「なんで話さなあかんねん」
「ハヤトのこと、ちゃんと知りたいから」
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