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「え、マジっすか。先輩、そういうのは早く教えてくださいよ」
エイミが目をキラキラさせて話に食いついてくる。
「でも、先輩がマニキュア塗ってる姿とか見たくないわー。なんか、サブイボたつわー」
「ほっとけ」
彼女は屈託がない。表情がころころ変わる。そして、嫌味がない。
フタバはソプラノサックスを抱え、微笑んでいる。
もう16才だというのに、まだ中学生のような容姿とおとなしさから、時折、女の子に間違われている。
「フタバ、大丈夫?」
エイミがフタバを気遣う。
まるで姉弟のように見えるが、二人とも1年生だ。
「ありがと、エイミー」
「定演は、ウチもしよっかな、それ」
「馬子にもなんとやらやな」
「一応、女やねんけど」
フミオは同じ2年生として、サキソフォンパートを引っ張ってきた。戦友という言葉が一番しっくりくる。ぼくは部長として、彼女はセクションリーダーとして、部をまとめてきた。
このアンサンブルコンテストを終えると、1ヶ月後には、定期演奏会が待っている。
「楽しもう。結果は自ずとついてくる」
ぼくたち4人で頑張ってきた集大成だ。気負いはなく、よくも悪くも緊張感のない4人だ。
出番は約2分後。
1曲5分の間にすべてを出し切る。
練習は重ねた。やれることはやった。
目指すのは金賞。
考えるのは、すべて終わってから。そのあとでいい。
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