0人が本棚に入れています
本棚に追加
2月14日 土曜日 夜明け前
向かいの家の門扉が開く。
ユイ姉さんが帰宅した。
日の出にはまだ早く、あたりは暗い。街灯に照らされる彼女の姿は、昨日の朝、出かけたままの装いだ。コートも同じ。耳飾りも同じ。髪型もゆるい。目の下のくまが色濃く、疲労が見てとれた。
しかし、どこか恍惚として幸せそうである。
これで3週連続である。決まって土曜日は朝帰りをする。
ぼくはカーテンの隙間から、フィールドスコープを引き抜いて、ため息をついた。
小さい頃から、よく遊んでくれた。ぼくには弟がいるが、年上の兄弟がいない。明るく優しい彼女は、理想的な存在だった。実の姉のように慕っていたと思う。
しかし、4年前、高校生になった彼女を見た時、ぼくの中に淡く芽生えたものは、たしかに恋だった。
彼女が大学に通い、ぼくが高校生になって、二人の環境は今までとずいぶんと変わってしまった。
ほとんど接点をもたなくなってしまったが、毎日、ぼくは彼女に思いを寄せた。
一方通行の恋。
それが今、目の前に失恋というかたちで実をなし、落ちた。
憂鬱な朝である。
奇しくも今日は、恋人たちの日。バレンタインデイだ。
最初のコメントを投稿しよう!