0人が本棚に入れています
本棚に追加
2月14日 土曜日 早朝
朝も明けきらない、うすぼんやりとした路地を行く。校門へ向かう道すがら、赤いケースを背負ったフミオを見つけた。
年明けから、ぼくたちはアンサンブルコンテストの練習のため、早朝に登校している。
土曜日の朝は、朝練に来る生徒も少なく、通学路にはぼくたち二人だけだった。
「おはようさん」
「おはよ」
彼女の息が白く煙る。
心なしか、表情は硬い。
「今日も寒いな」
「冬真っ只中やからな」
「寒すぎて顔が割れそうやわ」
「たしかにね」
二人で並んで歩くのは珍しいことではないけれど、急にしみじみとした感傷がぼくを襲い、朝日に薄ぼんやりと浮かび上がる通学路のそれぞれが、映画の一場面のように見えた。
「なんや、顔が凍っとるで」
沈黙に耐えられなくなって、ぼくは口をひらく。
「仏頂面なのは、普段から」
彼女はいつも通りのって来ない。
「なんか悩み?」
「違うよ」
「相談やったらいつでも乗るで」
「大丈夫」
彼女の短い髪がきらきらと風に揺れた。
話をきいてほしいのは、ぼくの方かもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!