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2月14日 土曜日 午前
個人練習を終えて、ぼくは外階段の踊り場で、朝の空気を肺いっぱいに吸い込む。
つんとした冬の空気の中で、すべてが静謐に見えた。
まもなく、部員がやってきて、部活動がはじまる。
階段の下から生徒の話し声が聞こえて、ぼくは身を乗り出して、覗き込んだ。
弟だ。
双子の弟、カイが女子と一緒にいる。
一緒にいる女の子は、3組のミライさんだ。校内美少女ランキングの上位ランカーである。
ぼくは階段のヘリに身を隠して、聞き耳を立てた。
「カイくん、朝早くにごめんね」
「ミライさんに呼ばれて断れる男子はおらんわ」
「ありがと。はい。これ。チョコレート」
「めっちゃ嬉しい。サンキュー」
「他の子に見られるのは嫌やったから」
「俺も勘弁。学校中の男どもに殺される」
「嘘。カイくんこそ、他の女の子にたくさんもらうくせに」
「そんなにモテへんよ」
それは密かな逢瀬だった。
聞いてはいけない。覗いてはいけない。と言われるものには筆舌しがたい魅力がある。
「じゃあ、わたし、部活あるから」
「いってらっしゃい」
「中は帰ってから開けてね」
「おう」
「お手紙入ってるから」
「誰に渡せばええのん?」
「もう! 本命やねんから! じゃあね」
「サンキュ」
へりから顔を出すと、軽やかに走り出す彼女の後ろ姿が見えた。
少し間をおいて、彼女の姿が消えるまで見送ったのか、弟の姿があらわれた。
校門へ向かう弟の後ろ姿。手には彼女から手渡された包みがあった。
ふいにコートの裾をまくり、背中に手を回すと、もうひとつの包みが現れた。
小首を傾げ、意気揚々と口笛を吹きながら去る様子には、殺意と羨望が芽生えた。
同じ顔をしているというのに、この差はなんなのだろう。理不尽である。
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