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2月14日 土曜日 夕方
合奏につぐ合奏で、口の周りの筋肉に力がはいらない。今日はいつも以上に集中して、演奏に打ち込めたと思う。
そうでなければ、余計なことを考えすぎて、だめになってしまいそうだった。
外は日が落ちてすっかり夜だ。顧問の先生も帰ってしまったので、まだ練習したりない気持ちを抱えて、皆、帰った。まだもう少し演奏のことを考えたかった。アンコンのことで胸をいっぱいにしておきたかった。
今日はなんだか疲れた。
アンコンが終わったらどうしよう。
ヒルマのように、ひしひしと失恋と戦わないといけないのだろうか。
楽器庫の戸締りをしていると、フタバが待っていた。
「どないしたん、忘れもんか」
「いえ。……いや、そうとも言うかもです」
もじもじとしている姿は、少女のようである。
「どないしたん?」
「あのちょっと一緒に帰っていただけませんか」
「ええで。でも、ぼくチャリやけど」
「ボクも電車なんで、ひと駅分だけ歩きませんか?」
「ええよ。じゃあ、鍵返してくるから、通用門で待ってて」
事務室に音楽室の鍵を返し、通用門に自転車を押して向かうと、壁に身体を預けて、フタバが待っていた。
キャメル色のダッフルコートに、赤いマフラーをしている姿は、女子高生に見間違いそうだった。
「お待たせ」
「ありがとうございます」
「いや、ええねん」
ぼくはぼくで、誰かと話している方が楽だと考えていた。
「行こか」
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