本になりたかったおじさんのはなし

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さすがに立ち読みだけで長いはマズイと思った、 奥の店主を気まずそうに視線を送って、軽く会釈した。 「いいんですよ、ウチは立ち読み大歓迎です。」 「こんな商店街の外れの古本屋、お客さんなんて殆どきません」 「丁度、暇をもて余してました、よかったら私の話し相手になって下さいな」 年の頃は35前後、痩せ型で一流ホテルのコンセルジュのような非の打ち所の無い応対だった。 「僕、こんな超常現象とかの本が小さいころから好きで、でも、両親や友達からはバカにされて…」 「子供がオカルトや超常現象の世界に興味を持つこと、見えない世界を感じること、想像の中で別の世界を強くイメージすることは、哲学性の芽生え、思考と想像力、重力の地平線を超える羽で羽ばたくことを始めたということですよ」 「僕、そんな難しい言葉わかんない、頭悪いから、でも、子供のころからずっと好きだったんですこんなのが」 「これは、これは、失礼しました。喋りすぎてしまいました。あなたのようなオカルト系の児童書好きの方に出会うと、嬉しくてついつい我を忘れてしまうのです。時に何かお目当の1冊は見つかりましたか?」 「それが、どの本も欲しくて…」 「お客様、誠に申し訳ございません、昨今、お金の力で暴力的な買い物をする輩がはびこっております。そのため、私ども古書店では一度のお売りできるのは半年の間に1冊と決めさせていただいております」 まったく、その通りだと思った、確かに金の力で子供の頃の夢や憧れを踏みにじるやつは許せない。 「その代わり、当店は立ち読み大歓迎でございます。じっくりと中味を吟味して、お客様にとって最上の本をお持ち帰り下さいませ」 本当に本好きの味方の古本屋さんだと思った。 ここで買う一冊、今決められ無くても次に決めれば良いと思う 今日はとりあえず退散することにした。
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