本になりたかったおじさんのはなし

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自分の思い出の中に逃げ込み、 昔の思い出に慰めてもらえさえすればよかったら、 今日もふらつく身体で古本屋にやってきた、 もう書架から本をぬき取る力も残っていなかった、 コンシェルジュはスターバックスの1人掛けのソファーを勧めてくれた、 家の万年床より快適だった、 書架の本を見上げてるだけで、なんとなく満ち足りた気分になった。 「お身体が優れない中、お越しいただいて私ども嬉しいのですが、 ご家族やお友達の方はご心配なさるでしょう」 「家族はいません、友達なんてもんは誰もいません」 「ですが、ご無理をなさって、出歩かればお仕事にも触るでしょう、病院に行かれてはいかがでしょうか」 「仕事なんて、どうだって良いんです。病院、、身体が良くなったって、楽しいこと、良いことなんて、この世に何もありませんから…」 「お客様、そのような寂しいことを仰られては、私どもは大変悲しゅうございます。」 「良いんですよ、この世界に私の居場所はありません、私が居なくなっても悲しむ人はだれもいません。もう、この世に存在してることだけが苦痛なんです、子供時代の思い出の中に閉じこもる以外に行くところが無いんです。ははは」 「このまま、この座り心地の良い椅子の上で、昼寝するように私の心臓が止まってくれたらとても幸せです。冗談では言ってません。本心で言ってます。ははは、でも、そうしたらこの本屋さんにはさぞかし迷惑でしょうけど」 予想に反してコンシェルジュは薄っすらと笑みを浮かべた。 「いいえ、迷惑ではございませんよ」 「私どもの古本屋はこの世のお店ではないのです。 まぁ?量子力学とかがもう少し進歩すれば、数式、方程式的に存在が証明できるんでしょうけど、 まぁ、なんと申しますか、純粋で優しくて、それで悲しみを一杯抱えた人達の思念が集まり自我を持ち、古本屋を始めさせていただいた、今のところはそのようにお考えいただけますでしょうか」 「この世のもので無い私どもと、お客様のようなこの世界にお住まいの方がご一緒するのは、お身体にはよろしく無いのです」
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