本になりたかったおじさんのはなし

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大人時代の夢、大人時代の出来事、 侮蔑と叱咤と拒絶だけの辛い出来事だけだった。 夢の中でもコンシェルジュから渡されたリモコンを握っていた。 僕は躊躇わずに早送りボタンを押した。早送りボタンを押し続けた。 僕の人生の出来事は子供時代にまで遡った。 そこで、ようやっと、早送りボタンから指を離した。 子供時代の僕は一心に本を読んでいた。 スポーツは苦手だったし、大勢の友達と一緒に過ごすのも苦手だった。 本を読んでる時だけが幸せだった。 読む本といっても、決して大人が喜ぶ児童文学や記録ではなく、幽霊やネス湖のネッシーUFOといった類の本だった。 そう言えば、それらの本を探して、隣町の図書館まで行ったりしていた。 突然、夢の再生が止まった。 画面に波状のノイズが走った。 画面全体が白色に輝いたかと思うと、夢の中の中から子供時代の僕が古本屋の店内に飛び出してきた。 そりゃそうだろう、大人になった僕が望んだことは「この世になんの希望を見いだせず、早くこの世から消えて楽になりたい」なんだから、誰だって情け無くなるだろう。 子供時代の僕は夢か第六感で感じ取ったのだろう、大人なった僕があまりに情けなくて時空を超越してこの古本屋に現れたのだと思う。 それで、子供時代の僕はどうしたか?青春ドラマのように「バカ野郎!!しっかりしろ!!」と熱く叫んだのか? 僕は僕だった、そんな内面の熱い思いを感情表現出来るんだったら僕の人生はもう少し違うものになっていた。 では、子供時代時代の僕はいったいどうしたか… ただ、さめざめ泣く以外にできることがなかった。 コンシェルジュは慌てながらさっきからバックトゥザフューチャーのビデオを見ている、ドックがマーティンに時空多重理論を説明しているシーンを探そうとしているらしい、DVDでは無くVHSテープなので探しだすのに時間がかかっている。 とりあえず、泣いてる子供時代の僕をなんとかしなければならない、 泣き止ませる方法とツボは心得ている、だって、子供時代の僕なんだから
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