煙草の味

4/4
前へ
/4ページ
次へ
 兄は披露宴のずっと前に優奈と共に赴任先へ引っ越していて、以来、もう何年も優奈と会っていない。彼女がどんな生活を送っているのかも、兄がどう優奈に接しているのかもわからない。 「とうちゃん!」 「ん。どした」  俺の部屋のドアがノックされて、子供が小走りに俺のもとへ走ってくる。 「お前は本当に俺のことが好きだな」 「えへへー、とうちゃんすき!」 「あなた、珈琲のおかわりは」 「おう、頼むよ」  きっと優奈は、こんな家族を夢見ていたんだろう。  もしかしたら嫉妬されてしまうかもしれないな、なんて思いながら子供の頭を撫でる。  なあ、優奈。  あんたは今、幸せを生きているのかな。  それとも、俺に嫉妬してしまうような人生を送っているのかな。  いつか答え合わせをしてみたい。そのときに、俺はあんたに嫉妬したい。  そう、思うのはずるいだろうか。  そんなことを思いながら、俺は煙草を一口、吸った。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加