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煙草の味
大人のあんたが妬ましかった。
煙草と香水と珈琲が混じった匂いが、部屋に絡みつく。
いつの間にか、俺も大人と同じ匂いをさせていることに気が付いたのはついこの前のことだった。
あの頃は、大人であることが羨ましくて、妬ましくて、苦しかった。
自由なんてものはなかった。今、振り返ってもそう思う。
だからこそ、自由奔放に働き、遊ぶ、大人たちが妬ましかった。
「ねえ、きみは何になりたいの」
大人ぶった顔で、義姉が俺の顔を覗き込む。
シトラスの香水と甘ったるい煙草の香りが顔を撫でた。俺はそれにくらり、とめまいを覚える。
「別に」
優奈はこの夏に、俺の義姉になったばかりだった。
つまり、俺の兄と結婚した。
でも、それよりもずっと前から、俺はこの人に恋していた。そんな気がする。
兄が初めて優奈を家に連れてきたときに、俺は煙草の味を覚えた。
未成年をぎりぎり脱した俺は、初めて飲み込んだ煙の味に、大人というものを感じて、同時にもう子供に戻れないのだということを悟った。
「どう?」
「悪くない」
「おいおい、ぼくの弟にそんな悪い遊びを教えるなよ」
「やだ。あなただって喫煙者じゃない」
「そうだけど」
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