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「そう。でもね、本当の夢はもう叶わないんだ」
「本当の夢?」
夢の内容を言い出す前に、優奈はひどく悲しそうな顔をした。俺に、何かをせびるような、本当に羨ましがるような――妬むそうな、嫉むような、そんな顔。
「あたしは、子供が生めないの。あたしは子供を生んで、育てて、いつでも笑いが絶えない楽しい家族を作りたかった」
「でき、ない」
「そう。できないの。でも、それでもいいって水樹は言ってくれた。ふたりでも楽しいよって」
「そんなの傲慢だ。俺は優奈が子供が欲しいなら体外受精とか、なんとか、そんなのを使って」
「それが!」
急な、優奈の大声に俺はひるむ。優奈の、そんなに大きな声を今まで聞いたことがなかった。
震える声で、優奈は続きを話す。
「それが嫌なのよ。あたしはそういうことはしたくないの。ただただ自然に、生きていたいだけなの」
「優奈」
「ごめんね、みぃ君。ごめんね」
「ゆ、な」
どうしてか、俺は泣いていた。優奈が涙を堪えているのに、俺は情けなく涙をこぼしていた。
「あたしには、なれない『家族』になってね」
それが、俺が最後に聞いた優奈の言葉だった。
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