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「どこへ行こう」
休み時間、歩は親友に持ちかけた。電子黒板の端っこで樹はうちわを扇いでいる。窓からは夏の日差しが照りつけていた。
「南極はどう?」
樹の提案に、歩は乗った。
「いいね!」
オットリナイフをふりおろす。時空の裂け目に二人は飛び込んでいった。
「やべー超すずしい!」
「寒いくらいだよ!」
一面の銀世界。
ふと、樹が静まる。歩の服装を指差し、言った。
「お前、釦がズレてるぞ」
「あっ……」
赤くなる歩。ワイシャツの釦を片手でとめ直す。肩にかけていた鞄を落っこどした。
「海も見えるじゃん! 行ってみよう」
鞄をひろって、歩は待ったをかけた。
「遠くまで行って、午後の授業に間に合うかな」
オットリナイフで作った近道は、数分経つと自然に消滅するのだ。
「また近道をつくればいいだろ」
「……それもそうだね」
雪の平原を駆け下りてゆく二人。背後で、時空の裂け目が光を放って消える。
その下にオットリナイフが落ちていた。真っ白なナイフは、真っ白な雪と見分けがつかなくなってしまった。
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