*ナイフで南極に行こう*

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「遅刻するよ!」  母に言われて、(あゆむ)は制服に着替えながら答えた。 「大丈夫だって!」  そうは言っても、彼はリビングのあっちに行ったり、こっちに来たり、バタバタと落ち着かない。ワイシャツの(ボタン)を片手でとめる。肩にかけていた鞄を落っこどした。 「あと五秒しかないじゃない!」 「いってきます!」  歩は鞄から白いナイフのようなものを取り出した。それを空中で振り下ろすと、あたりが光に包まれた。  光がおさまる。しかめっ面の母が一人、リビングに取り残された。 「お待たせ」  教室にチャイムが鳴り響いた。先に席についていた(いつき)は「珍しく間に合ったな」と目を丸くした。 「これのおかげだよ」 「オットリナイフ……昨日発売の!」  白いナイフを持って、歩は「へへん」と胸をそらした。 「オットリナイフ」は、近道を作り出す道具である。  この刃物は、時空に裂け目をつくることができる。行きたい場所を設定し、その場で振り下ろすと、任意の場所へ通じる近道ができる。言い換えれば、一般庶民用のワープ装置である。
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