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「へっくしょん!」
樹が大きなくしゃみをした。自分の腕をさすりながら、歩に言う。
「そろそろ学校に戻ろう。さすがに寒い」
空は雲でおおわれた。雪も舞っている。歩は「うん」と頷いて鞄のなかをさぐった。
「僕のオットリナイフで……あれ?」
おそるおそる訊ねる樹。
「まさか、失くしたとか言わないだろうな」
歩の顔は真っ青になった。
「そのまさかだよ。いつき」
樹は歩に迫った。
「うっそだろ! あれがなきゃ授業に出られないどころか、家にも帰れないんだぞ」
「だ、大丈夫だよ。人が住んでるところまで行こう。すえおきのワープ装置を貸してもらえば」
歩は携帯でネット地図を開いた。南極大陸の岸に赤い印がある。携帯の現在地……つまり、二人の居場所だ。
樹はうなだれて首を横に振った。
「あゆむ、無理だ。ここから一番ちかい基地まで一〇〇〇キロもあるじゃないか。一週間歩いても着きそうにない」
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