愛の魔物

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湊駅には愛の魔物が住んでいる。 辞書で「魔物」を引いてみた所、魔性をもつもの。妖怪。変化。また、人をたぶらかすあやしい力をもつもの。といった書き方をされていた。 さしずめ、愛という魔性を持ち、我が家族をたぶらかす者といった所である。魔物と言えば聞こえは悪いが、決して悪いものではない。ただ、安心はできない。しかし、安全ではある。何故なら襲いかかりはしないし、取って食ったりもしないからだ。そこが愛の魔物の愛たる部分である。魔物の99%は愛でできている。 しかし残り1%が我が家族にとって、存在を魔物たらしめるのである。 愛の魔物の住まう家に遊びに行こうものなら四六時中食料を出される。甘いものを断ると辛いものが出され、辛いものを断ると甘いものが出される非常によくできた仕組みである。 風呂で長湯をしていれば、冷えたミルクティーが出され、おまけにハーゲンダッツのバニラ味まで添えられている。これでは貴族のティータイムである。ただ寝て過ごそうにも清潔な衣服が用意され、ふかふかの布団が敷かれ、冬には私が寝床に入る前からすでに電気毛布で温められているのである。 こんな恐ろしい仕打ちを毎度のことながら受けていると当然私の体重はぶくぶくと膨れ上がり、年頃の乙女である私にとって死活問題となる。断ればよい、などと当然の疑問を浮かべた人もいるだろう。しかし、これが魔物の魔物たる所以である。 察してほしい所だが、もちろん魔物が私の為に用意してくれたものを私が断れるわけがない。これまでの全ては魔物による愛なのだから。更に言うと、美味しいものに罪はない。美味しいものは美味しいから素晴らしい。暖かいものも清潔なものも上に同じくである。故に我が家族は愛があっても魔物を警戒する。 しかし、愛の魔物は我々の警戒など御構い無しにほぼ毎週泉大津に住む我が家へやって来る。こちらが行かなければ向こうからやって来るので防ぎようがない。 たんまり買い込んだ食材を持って湊駅から泉大津駅まで普通電車でやって来る。それも突然である。ちなみに魔物は複数である。 「え!?今から来る!?もうすでに泉大津駅!?もう!来るなら言ってって言ってるのに!!」
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