海に行こう

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海に行こう

「海に行こう」 彼女が唐突にそんなことを言ったのは、昼休み図書室で顔を会わせたときだった。 「はあ」 間の抜けた返事が不満らしく、頬杖をついて黙りこむ。 「あー、いつ行く?」 「放課後」 返事は早かった。 「……、今日の?」 「勿論。何か予定でも?」 「ないけど」 放課後もこうして、2人で図書室で過ごすつもりだったのだから。 「じゃあそう言うことで」 こういう時は、質問を重ねても無駄だと学んでいた。 どうせ放課後になれば分かることだった。 放課後、生徒の多分誰よりも先に学校を飛び出した僕らは電車に乗っていた。 「どこに行くんだ?」 「だから、海だよ」 窓の方を向いたままの彼女からは、予想通りの答えが帰ってくる。 諦めて、シートに沈んだ。 窓からはビルしか見えなかった。 電車が駅に止まる度、沢山の人が降りては乗ってくる。 開かれた扉の向こうはいつも騒がしかった。 「あ、海」 彼女の呟きで、僕が眠っていたことに気付く。電車の中の人の数は随分と減っていた。 窓の外を見ると、ビルの向こうに海が見えた。 「次降りる?」 「うーん、まだ遠そうだね」 「でもこの電車って、ずっと海からこのくらいの距離を走ってるんじゃないのか?」     
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