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そういえば、とずっと考えていた事実を尋ねてみる。
案の定、彼女はきょとんとした顔で僕を見た。
「え……、本当に?」
それは困った。
それほど困った様子もなく、壁の路線図を睨む。
「えーっと、このまま行くと……和歌山まで行くみたい」
「何時間乗るつもりだよ」
「行ってみたいね」
会話する気があるのか疑わしくなる。仮に僕が何も返事をしなくても、一人で喋り続けるんじゃないだろうか。それほどに僕の質問は意味を持たない。
「まあ確かに、行ったことないし」
諦めて、話を合わせる。
「確か……、山があるよね。高野山、登ってみたいな」
「山登りなんて何が楽しいんだよ」
「言うと思った! じゃあ君は、何がしてみたい?」
窓の方を向いたまま笑った。彼女が僕に何かを尋ねるのは珍しかった。
少し考えて、答える。
「……、うすかわ饅頭が食べたい」
「……相変わらずだね、君は」
「かげろうも気になる」
ちなみに、と
もう一つの候補を告げると、彼女は何が面白かったか声を上げて笑いだした。
他の乗客がいなくなっていて良かった。きっと、おかしな二人組に見えた筈だ。
「次は和歌山に行こうか」
散々笑った後の、ついでのように彼女が言った。
「え、」
思わず振り向く。だが顔は窺えなかった。
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