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駅からの道に人はまばらだった。少なくとも、この付近のものではない制服姿で歩く僕らは浮いていた。
僕らは、海が見え隠れする道を無言で歩いた。
正確には、意気揚々と歩く彼女を僕が必死で追いかけて歩いた。
「おお!海!」
海へと向かう階段を見付けた彼女が、振り返って僕を待つ。
「全然近くない……」
運動嫌いな僕は、体力の限界だった。
「たかだか、10分くらいしか歩いてないよ。情けないなー」
あと一時間くらいは余裕で歩けそうな彼女が、先に階段を駆け下りていく。
海に繋がる階段は、文字通り階段の途中から海の中へと続いていた。
波の押し寄せる際から三段上がって座る。
「海。今年はこれが初めてだ」
波の方へと足を伸ばしながら、なぜか満足そうだった。
「同じく」
並んで座ると、視界は海に支配された。
「夏もあっという間だな」
「もうすぐ炬燵が活躍する季節だね」
世界には、僕ら二人だけになったようだった。
「さすがに気が早くないか」
「そういえば君、試験勉強はちゃんとしているのかい?」
「いきなり現実的な話になったな」
「夏休みの課題もぎりぎりだったから、心配しているんだよ」
そう言われると返す言葉もない。
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