海に行こう

4/6
前へ
/6ページ
次へ
駅からの道に人はまばらだった。少なくとも、この付近のものではない制服姿で歩く僕らは浮いていた。 僕らは、海が見え隠れする道を無言で歩いた。 正確には、意気揚々と歩く彼女を僕が必死で追いかけて歩いた。 「おお!海!」 海へと向かう階段を見付けた彼女が、振り返って僕を待つ。 「全然近くない……」 運動嫌いな僕は、体力の限界だった。 「たかだか、10分くらいしか歩いてないよ。情けないなー」 あと一時間くらいは余裕で歩けそうな彼女が、先に階段を駆け下りていく。 海に繋がる階段は、文字通り階段の途中から海の中へと続いていた。 波の押し寄せる際から三段上がって座る。 「海。今年はこれが初めてだ」 波の方へと足を伸ばしながら、なぜか満足そうだった。 「同じく」 並んで座ると、視界は海に支配された。 「夏もあっという間だな」 「もうすぐ炬燵が活躍する季節だね」 世界には、僕ら二人だけになったようだった。 「さすがに気が早くないか」 「そういえば君、試験勉強はちゃんとしているのかい?」 「いきなり現実的な話になったな」 「夏休みの課題もぎりぎりだったから、心配しているんだよ」 そう言われると返す言葉もない。     
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加