追憶の旋律

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そんな中に。 「……依頼人、あの人ですよね」 一人だけ、他の人たちとは明らかに空気の違う女性がいるのを発見し、あたしは純一さんを見ないままそう声をかけた。 「ああ。間違いねぇな。憔悴して気が薄くなってるし、何より一緒にくっ付いてるのが生きた人間じゃねぇ。……ちょっとばかし、思ってた依頼内容とは違いそうだな」 ポツリと意味深な呟きを最後にこぼし、その女性の元へと純一さんは近づいていく。 「待たせて悪いな。あんただろ? 依頼人の細川ってのは」 初対面、それもお客の立場である相手へ放つ言葉遣いとは到底思えない話し方で声をかけ、純一さんが女性の前に立つ。 「……はい。そうです」 いきなり不躾な態度で声をかけられた女性、細川さんは一瞬ビクリと小さく肩を跳ねさせて純一さんを見上げる。 「破怪屋の矢式森 純一(やしきもり じゅんいち)だ。約束通り、依頼の詳しい内容を聞かせてもらいにきた」 相手の返答を待ってから正面に向かい合って座り、純一さんはさり気ない風に周囲の席を確認する。
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