追憶の旋律

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幸い、近くの席にお客さんはいない。余程大きな声を出したりしなければ、話を聞かれることもないだろう。 「はい。あの、何かお飲みになられますか?」 「いや、話が終わってから考える。内容次第ではこの後すぐに仕事を始めてもいいかと思ってるんでな」 気を遣ってくれる細川さんの問いかけに、純一さんはあっさりと首を振った。 「え? そんなすぐにどうにかできるものなのですか?」 「言ったろ? 内容次第だ。ひとまず、あんたの身に何が起きてるのか、少しでも具体的に話してみてくれ。息子の霊が関連してるようなことをメールに書いていたが、まさか自分の子供に呪われてるって考えてんのか?」 白い椅子の背もたれに体重を預けるようにしながら、純一さんは細川さんを見据える。 その視線と一度目を合わせてから、細川さんは何かを思案するようにテーブルへと目線を移した。 それから数秒間口を閉ざして沈黙を作ると、覚悟を決めるかのような吐息を一つ漏らして、己の身に降りかかっている出来事を語りだした。
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