追憶の旋律

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かなりプライベートな部分であるはずの事柄を、細川さんは固い声音で話してくれる。 障害に対する知識がないあたしには、そういった問題の解決にどんなプロセスがありどれくらいのお金が必要になるのかもさっぱりわからないけれど、素人が無責任に想像するよりは遥かに大変なんだろうなというくらいの推測はできる。 生活が楽じゃなかったと言ったことから考えても、きっと、細川さんなりに苦渋の選択を強いられながら頑張っていたんだろう。 辛そうに話をする目の前の表情を見つめていると、自然とそう理解できてしまう。 「そうか。それで、その息子が亡くなってそれからどうなったんだ?」 純一さんが話の先を促す。 「はい。息子が死んで……ちょうど五ヶ月くらい経った頃でしょうか。今年の三月半ばくらいから急に、生前息子が遊んでいたオルガンの玩具が勝手に鳴りだすようになりまして……。それが、今でも続いているんです」 「オルガンの玩具? どんなやつなんだそれ?」 うまくイメージができないのか、純一さんが微かに首を傾げる仕草をしてみせる。 「これくらいの、オルガンの形をした小さな玩具なんですけれど。鍵盤が五つほどついていて、押すと音が出るんです」
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