追憶の旋律

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苦悩するかのような重い口調の細川さんの胸中など慮る必要もないというくらい事務的に、純一さんは新たな問いを吐き出し話を先へと進めていく。 「いえ、そんなつもりはありません。ただ、私は息子を楽にしてあげたいんです。迷信なのかもしれませんが、死んだ人の魂も四十九日を過ぎれば天国へ昇ると言いますよね? それにも関わらず息子の霊が側にいるということは成仏ができていないんだろうなと。なので、せめてどうにかそれくらいのことはしてあげたいというか、許してもらえなくても母親らしいことができないかなと、そう思っただけなんです」 成仏ができていない。細川さんのその言葉は正解だなと、あたしは思った。 何故なら今この瞬間も、細川さんが座る椅子のすぐ横に、無邪気な顔をしながらあたしたち三人を見つめている男の子の霊がいるから。
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