追憶の旋律

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         1 九月に入って三日目の、見ているだけで蒸し暑さが伝わってくる晴天の午後。 この日、あたしは純一さんと一緒に夕飯の買い出しへと向かっていた。 相変わらず財布の厚みが薄っぺらい純一さんの行きつけの店は、主に缶詰め狙いで百円均一ショップかパンの耳を格安で売ってくれる近所のパン屋さん、または閉店間際のスーパーくらいなのだけど、パン屋さんを通り過ぎたことと時間帯から推測して、今日は百均ショップへ行くつもりなのだろう。 『破怪屋』という名前で悪霊退治をメインに請け負う霊媒師の仕事をしている純一さんだが、その正体は単なるモグリで何の手続きもしないままに営業をしている残念な人だ。 仕事が入りお金を貰った直後であれば、焼き肉やらお寿司やらと贅沢をしているものの、如何せん収入の不安定な個人事業でしかもまだまだ知名度の低いモグリの霊媒師の元へそうそう仕事の依頼が舞い込むこともなく、すぐに金欠状態へ転がり落ち極貧生活を余儀なくされるという展開へ陥ってしまっている。 スーパーでちゃんとした買い物をして自炊をすれば、やり方次第では節約もできるはずなのに、この人は面倒臭いというどうしようもない理由だけでそれをやろうとしてくれない。
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