追憶の旋律

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「それは認めますけど、絶対少ないですよ。追い詰められてからこんな節約生活するくらいなら、普段からもっと料理覚える努力とかして、自炊した方が楽なはずです」 と、これまでに何度も口にしてきたアドバイスを今一度聞かせてみせた。 だけど、相変わらず純一さんはまともに聞き入れる態度は見せずに、 「やらねぇよ、面倒臭ぇ」 というもはやお馴染みの台詞を吐き捨ててくるだけ。 本当に、この自分自身に対しての怠惰な性格さえ直してくれたら、一気にまともな人の仲間入りができるはずなのに。 そんなことを思い呆れかけていたあたしの耳に、聞き慣れた電子音が聞こえてきた。 「あ、スマホが鳴ってますよ」 「ああ」 純一さんがポケットに入れていたスマホを取り出し、画面を見つめる。 基本的に、純一さんのスマホに電話の着信はないに等しい。 たまーに、仕事仲間の怜花(れいか)さんから連絡がくる程度で、あとはほぼ全てが依頼人からのメールのみという、ちょっと悲しい人でもあるのだ。
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