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きっと十センチだろうが二十センチだろうがあの人は褒めてくれた。
十六センチなんて決まりはない。
わかっていたけれど、それでも六年間もずっと続けていたのは、私にとってここで出会ったあの時が特別な瞬間だったから。
付き合い始めた頃は大切な思い出のためにしていた肩下十六センチという髪の長さが、結婚した後は願掛けに変わった。
私が肩下十六センチのロングにしていることで、この人は永遠の愛を守り続けてくれると、そう思った。
だから私はずっと続けていた。
だけどそんなの何の誓約にもなりはしなかった。
あの人は突然約束を違えた。
突然誓いを破った。
だってあの人は……。
「お疲れ様でした」
ハサミの音はいつの間にかなくなり、代わりに幾度となく聞いて来た言葉が聞こえた。
ゆっくりと目を開けると、暗闇が消えて光が目の前いっぱいになり少しぼやける。
パチパチと瞬きをしていると、少しずつ視界はクリアに。
「あっ……」
鏡にはさっきまでぼやけて見えなかった私の姿。
長かった髪はスッキリとしたショートに。
なんだ、私ショートも似合うじゃない。
ショートの方が若々しく見えるじゃない。
ロングじゃなくても私……。
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