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見上げると、優しく微笑む店長さんと目が合う。
「だから、横田さんもきっと、またその短くなった髪があの長さになったときには、笑顔でここに来れますよ」
フワリと大きな手が私の頭のてっぺんに乗せられる。
そしてその手はゆっくりと髪を撫で、毛先まで行くと今度は肩を。
そして腕を伝って最後には鏡に置かれている私の手の上に。
驚きのあまり涙が止まってしまった私のことなどお構いなしに、店長さんはその場に屈んで私と目を合わせる。
そして。
「大丈夫、ちゃんとショートも似合ってます」
“大丈夫だよ、ちゃんとショートも似合ってるよ”
「っ……」
目の前にいるのが店長さんだとわかっているのに、旦那にその姿が重なって、まるであの人にそう言われているように感じ、止まっていた涙がまた一気に溢れ出す。
店長さんに迷惑がかかるからと我慢していたけれど、もう我慢しなくて良いと思った。
だって、こうして泣き続けていると、いつか涙の海は干からびて、そうしたら今度は笑顔になれるから。
これはそのための涙だから。
きっとまた私はここでいつもの注文ができる日が来る。
肩下十六センチのロング。
その大切な言葉を口にするために、今はまだ溢れる涙を止めることはしないでおこう。
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