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木枠に大きなガラスを嵌め込んだ造りになっている扉を開けて中に入ると、フワリとシャンプーの香りが鼻孔をくすぐる。
馴染みのある香りにほっと息をつくと、レジ前に立つ男性と目が合う。
男性はニコリと笑みを浮かべて口を開いた。
「いらっしゃいませ、お待ちしていましたよ、横田さん」
ここは六年前にオープンしてから私がずっと通っている美容院。
最近は美容師希望者が少ないらしく、この男性が一人でお店を回している。
一人で大変だと言っているけれど、このお店はお客さんを途絶えさせることはない。
店長さんは私より十歳以上も年下なのに、六年前から変わらず今もしっかりとお店を守っている。
「お久しぶりですね」
「久しぶりね、最近バタバタしていてなかなか来られなかったから随分髪が伸びちゃったわ」
私の言葉に髪をチラリと見た店長さんは“確かに”と笑った。
「どうぞこちらに」
店長さんに案内されるようにして、入口から、大きな鏡が目の前に置かれている髪を切るための席へと移動した。
馴れたように私が座った後椅子の後ろに立った店長さんは、いつものように髪を二、三度梳いてから鏡越しに私へと視線を向ける。
「結構伸びたみたいなのでいつものように肩より十六センチ下になるよう切って、後は量を減らすので大丈夫ですか??」
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