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「私ももうアラフィフだからショートにしたほうが若く見えるかなと思ったの」
鏡越しにニコリと笑いかけると、店長さんはじっと私の目を見返す。
「っていうのは冗談で」
私の嘘を簡単に見抜いているその目に、早々に白旗を揚げた。
私は一つ小さく息を吐いてゆっくりと瞬きをしてから今度は本当の理由を伝えるべく、再び口を開いた。
「失恋したから」
「それは……旦那さん??」
「そうよ。旦那はね、私に嘘をついたの……私との約束を破ったの……だから失恋」
「その約束って、プロポーズのときに旦那さんが言ってくれたと仰っていた“永遠の愛”のことですか??」
私がコクリと頷いたのを見て全てを察してくれたらしい店長さんは“わかりました”と呟いた。
「それじゃあまずシャンプーをするのでこちらに」
そしてそれ以上は何も聞くことはなく、私をシャンプーをするための席へと誘導した。
ゆっくりと椅子を倒され、顔にはシャンプーやお湯がかからないように、息苦しくない程度の薄いタオルが被せられる。
「それじゃあシャンプーしていきますね」
最初にお湯で髪を充分に洗った後、店長さんのその言葉でシャンプーが始まった。
顔にかかる柔軟剤の香りと、少しだけ甘いシャンプーの香りに、私は旦那と出会ったときのことを思い出した。
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