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日差しが強く照りつける夏の朝。僕はやっと胸を張って「見慣れた風景」と言えるようになった気がする街並みを散歩していた。高校が夏休みに入ったのをいいことに惰眠を貪るつもりで昨夜も床についたはずだったが、今朝は珍しくいつもの登校時間に間に合うくらい早くに目が覚めてしまい、課題以外は特にやることもないので久しぶりに近所をゆっくり歩くことにしたのである。
4か月前、まだ桜の花びらがちらちらと舞う季節に東京から引っ越してきた頃は、慣れない道、慣れない空気、そして慣れない方言にひたすら戸惑う毎日だった。買い物をするのにスーパーへの道を覚えられず、西風にのって漂ってくる潮のにおいに最初は違和感を覚え、隣の年配の奥さんが話す泉州弁にほんの少し恐れ……この先本当にやっていけるのか不安になることさえあった。しかし、人間というものは、やらなければならないことを1つ1つゆっくりとこなしていけばそのような生活にも慣れてしまうようで、今となってはスマートフォンの地図アプリに頼らずにスーパーへ行けるようになったし、潮のにおいがとても心地よく感じられるようにもなった。そして何より、隣の奥さんが話す怒濤の泉州弁に調子よく返
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