後悔はしたくない

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 彼が自分からそんな事を言うなんて思いもしなかったからだ。たぶんその吸血鬼との交流が、停滞気味だった彼の心を再び人に近づけているのは明白だった。下僕達も困惑した表情で私を見つめる。しかし街の新法を自身で定めた私にはどうする事も出来ない。私は悔しさで歯が砕けそうになりながら彼に任務継続を告げた。そしてそれから数日後、私は使い魔を夜天に放ち彼の行動を盗み見る事にした。今まで彼に対してはそんな事をしなかった。バレた時に彼に嫌われると思ったからだ。人の感情も禄に持ち合わせてはいないのに――。  使い魔の目から送られてきた映像は私を絶望の淵へと沈ませるには十分な物だった。その場所は商業区画と貧民区画の境にある娼館で、彼と吸血鬼の少女が半裸で抱き合っていたのだ。私ですら見た事のない彼の艶姿を吸血鬼の少女が寄り添い撫でている。するとその血を吸うゴミ虫は、あろう事か彼の首筋に牙を突き立て血を吸い始めたではないか。薄暗い部屋の中で赤い瞳が爛々と輝いている。そして此方に視線を合わせるとフッと勝ち誇ったように笑ったのだ。窓越しに月を眺める訳でも使い魔を見ている訳でもない。あれは私を見て嗤ったのだ。  私は夜が明けるとすぐに下僕達を集め工作活動を指示した。敵対している領地と同盟を結び、わざと間諜を招き入れ、治安を悪化させてその罪をあの糞虫に擦り付けるという物だ。我ながらその計画は完璧だった。糞虫が磔にされ死ぬ様は湖畔を吹き抜ける清涼な風の様に私の心に清々しさもたらした。しかしその日から彼は姿を消してしまった。 「火急の報告があります!」  私を過去の記憶から戻したのは下僕の声だった。お茶の時間に何だと言うのだろうか? 「反乱です! 貧民達が街の至る所で暴れ回っています!」 「詳しく」     
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